Exhibition
Wandering Wonder
髙橋キャス・榎本浩子 二人展

会期:2025年4月4日(金)~5月18日(日)13:00~17:00
会場:gallery.studio.cafe_newroll
Mail newroll689.1@gmail.com
〒 377-0303 群馬県吾妻郡東吾妻町新巻689-1
・渋川伊香保IC より車で20分
・JR 市城駅より徒歩21分
・高速バス上州ゆめぐり号東支所前駅より徒歩15分
・セブンイレブン吾妻東村店の斜め向かい

入場無料
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Wandering Wonder

 キャスちゃんとは大学の同期で、出会ってから20 年くらいは経つということになる。当時キャスちゃんの 存在は知っていたものの、別の学科に所属していたこともあり、大学時代のことを思い返しても会話した記 憶がわずかにあるというくらいで、彼女が何に興味があって、どんな研究をしていたのか何も知らないまま 大学を出た。 それからお互い会うこともなく、地元の群馬に戻りしばらく経った頃、風のうわさで海外にいると聞いていた彼女が、今では群馬に住んでいることを知った。写真で見た彼女の作品は、繊細な線で紙 に描かれた絵だった。彼女が絵を描くとはまったく思っていなかったので、それが本人によるものだと知ったのはほんの数年前のことだった。キャスちゃんが県内で展覧会をしていた時に、大学を卒業して以来の再会をした。それを機に中之条方面に行く時はよく会うようになった。  

 私はこのところ急に、人と関わることに疲れてしまった。無理に人と関わったり合わせたりすることが減り楽になったところもあるが、他者との関わりを諦めたわけではない。 キャスちゃんとはこれまであまり接点 がなかったからかもしれないが、今の私にはほどよい距離感で気兼ねなく会えるありがたい存在でもある。人との関わりが減った分、家庭菜園に時間を費やしている。草花に興味を持ち始めたきっかけも急激な体 力と精神の落ち込みという消極的な理由からだったが、土を耕し、種をまき、苗を育て、収穫し、種をとる。どの過程のなかにも、難しさを感じると共に小さな発見と幸せを見つけることができる。 畑の作業がひと段 落して帰り、収穫したばかりの野菜を料理して食べる。かつては野良だった猫たちも、一緒に暮らしていると毎日新しい気づきがある。
そうやって一日、また一日と生きていられる。

 キャスちゃんは私とは違ったかたちで人との関わりを大切に、前向きに続けているようだ。単に人と話す ことがとても好きなようにも見える。そして人の手の加わっていない、コントロールできない自然の中に身を 置き見つめて大切にしている様子を、その繊細な作品たちからも感じ取ることができる。あるとき、彼女に 畑の野菜につくやっかいな虫の話をしていたら、レイチェルカーソンの『沈黙の春』という本を教えてくれた。 でも『センス・オブ・ワンダー』の方がお勧めだという。この本はレイチェルカーソンが癌を患うなかで執 筆されたものだ。 センス・オブ・ワンダーとは、レイチェル自身の言葉によると「神秘や不思議さに目を見 はる感性」という意味を持つ。 森のなかの神秘的な煌めきから、台所の窓辺の小さな植木鉢にまかれたひ と粒の種子の成長まで、子供のころにはじめて見るものたちと出会った素朴な感動を思い出させてくれる。 その感性をヒントに、この展覧会のタイトルはつけられている。子供の頃の澄んだ感性は、大人になるにつ れほとんどなくなってしまったのかもしれない。けれど日常の端々にひっそりと現れる草花や生き物たちを じっと見つめ、目的もなく目の前にあるそのものを慈しみ楽しむ姿勢は、私も彼女も今でも持ち続けているような気がしている。そしてそれは生きる糧でもあるのだ。
別々にあてもなく歩き続けてきて、案外近いところに行き着くのかもしれない。

榎本浩子