春の間、新潟に滞在することになった。
目の前には日本海。海のない場所で生まれ育った自分にとって、寝泊まりしている場所の下が砂丘だと思うと不思議な気分だった。
滞在の間、庭を巡り、植物の思い出を集め、誰かと一緒に種を蒔くことにした。
シュロ好きの人のところに、鳥が落とした種からシュロが生えてきた庭。咲きこぼれるばら園を夢見る庭。家のすぐ前を流れる川を眺めることができるように丸い椅子が置いてある庭。果樹やハーブ、雑草が共存しているぶどう園。大きな猫、大きなビワの木と生活する庭。傷に塗ったオトギリソウ、変わったかたちのコスモス、モクレンの歌、家族三代で大切にされているブラックベリーの思い出…..
「鉢は素焼きの方が良いけれど、お化粧と同じで釉薬をかけるの」と、陶の作品を展示していた小さく素敵なギャラリーで、作った鉢植えに植物を植える楽しみを教えてもらった。小学生の頃に作ったランプシェードとカラカラと鳴るハムスターの親子を作って以来、陶芸に触れることはなかった。知識も技術も道具もないので、畑で拾った石と少ない道具を使って土をこねた。焼きあがった鉢に、巡った庭から分けてもらったり滞在中に育てていた植物を植えた。

 

Exhibition
「クリテリオム99 榎本浩子」
2022
.11.5 ‒ 2023.1.29
水戸芸術館現代美術ギャラリー

撮影:天野裕子